ST-T異常とは?ST低下やST上昇の原因や心電図波形など
2021年02月01日
本記事は、下記関連ページの、続きとして記載しました。ご興味のある方は、是非、最初から読んでみて下さいね。
関連ページ: | ・心電図の異常は、何科に行けばいいの? |
ST-T異常とは?ST低下やST上昇など用語解説
心電図の波形にはST-Tと呼ばれる部分があります。ST-T部分が低下している場合がST低下、上昇してる場合がST上昇とされます。
心電図結果のST-T異常とは、ST低下やST上昇などの、ST-T部分に波形異常があることを示しています。ここから先では、ST低下やST上昇のST-T異常を、それぞれ解説していきます。
ST低下やST上昇のST-T異常で、クリニック受診前の確認項目
心電図検査を受けた、健診センターや医療機関より、緊急指示があった場合は、その指示に従って下さいね。
心電図波形の、ST低下やST上昇のST-T異常を指摘されました。症状がないから経過観察でいいの?精密検査を受けるべき?気になる症状があるけど対応は?、とご心配されている方は、循環器科、循環器内科を標榜するクリニックや病院受診が推奨されます。
また、クリニックに所属する医師の経歴や所属学会を、チェックしてからの受診をお勧めします。医師の専門ジャンルを、知る事が出来るからです。
クリニックのウェブサイトで、医師の経歴や所属学会などを確認する事ができます。ウェブサイトのないクリニックでも、看板に医師の得意ジャンルなどが、掲示されている場合があります。
医師プロフィールに、下記表記されているかチェックしましょう。
- ●●心血管(インターベンション)学会 専門医 / 認定医 / 所属
- ⇒ 心臓病の中でも、とくに狭心症や心筋梗塞を得意としている事を示しています。
- ▲▲循環器学会 専門医 / 認定医 / 所属 ⇒ 心臓病を得意としている事を示しています。
- ■■心臓病学会 専門医 / 認定医 / 所属 ⇒ 心臓病を得意としている事を示しています。
狭心症や心筋梗塞を、得意とする先生の診察を受けると、精密検査の計画や、検査後の治療方針決定がスムーズとなります。
しかし、必ずしも、そのクリニックで全て解決する訳ではありません。より高度な医療に対応でき、高度医療機器を有している総合病院などへ、紹介受診が必要となる事もあります。
プロフィールに表記のある医師は、その場合でも、専門ジャンルの病気に詳しいため、総合病院の専門の先生とコミュニケーションをとり、紹介受診がスムーズに進む可能性が高くなります。
クリニック受診前に、電話などにて、希望医師の診察予約が可能かどうか、確認されるとスムーズです。
関連ページ: | スタッフ紹介 |
ST低下やST上昇のST-T異常にて、考慮される精密検査
ST低下やST上昇のST-T異常にて、考慮される外来精密検査は、以下となります。
- 安静心電図検査(あんせいしんでんずけんさ)
- 心臓超音波検査(しんぞうちょうおんぱけんさ)
- 冠動脈造影CT検査(かんどうみゃくぞうえいCTけんさ)
- 運動負荷心電図検査(うんどうふかしんでんずけんさ)
- 血液検査(けつえきけんさ)
- 【入院】心臓カテーテル検査(しんぞうかてーてるけんさ)
これら全ての検査が、必要という事ではありません。検査方法は異なるけど、調べている内容としては似ている、といった検査も記載しています。
また、他にも、心臓を詳しく調べる精密検査は、色々あります。
症状や、年齢、生活習慣、持病といった背景、医師の診察によって、推奨される検査は変わってきます。
安静心電図検査
- 所要時間: 1分程度
- 自己負担額: 約130円 ~ 400円(自己負担割合によります)
健康診断などで受けたのに、もう一回やるの?と思われるかもしれません。
違ったタイミングで心電図検査をすることにより、前回の検査から変化がないか、再現性があるかどうか等をチェックします。検査当日に、結果説明が可能となります。
心臓超音波検査
- 所要時間: 20分程度
- 自己負担額: 約880円 ~ 2,800円(自己負担割合によります)
テレビのコマーシャルや番組で、妊婦さんがお医者さんと、超音波検査を用いて、お腹の赤ちゃんを見ている場面を、ご覧になったことがありますか?
超音波の原理を用いた、同様の検査機器を左胸にあてると、心臓のポンプ機能、筋肉の状態や、弁(心臓の血流を制御する構造)機能、etc.を、動画や静止画で確認する事が出来ます。
体にダメージがなく、安全な検査となります。検査当日に、結果説明が可能です。
冠動脈造影CT検査
- 所要時間: 20分程度
- 自己負担額: 約3,000円 ~ 9,200円(自己負担割合によります)
心臓の栄養血管である、冠動脈(かんどうみゃく)が閉塞していないか?狭窄していないか?をチェックする検査です。
点滴注射で造影剤を用いながら、CTを撮像します。造影剤使用にて腎臓に負担をかけるため、腎臓機能が悪い、30秒程度の息止めが難しいetc.で、検査できない場合もあります。
CTの撮像自体は20分程度ですが、解析に時間を要します。前後の点滴注射もあり、検査当日に結果を聞かれる場合、3時間程度かかります。
運動負荷心電図検査
- 所要時間: 30分程度
- 自己負担額: 約380円 ~ 1200円(自己負担割合によります)
運動によって心臓に負担をかけ、心電図波形の変化や、不整脈の出現がないかをチェックします。
踏み台昇降運動の前後で心電図をとったり、心電図を装着した状態で、エアロバイクをこいだり、ルームランナーで走ったりします。 検査当日に、結果説明が可能です。
※激しい息切れが生じる事があり、コロナ禍の現在、当院では運動負荷心電図検査を中止しています。
血液検査
- 所要時間: 3分程度
- 自己負担額: 約1,200円 ~ 3,600円(自己負担割合によります)
採血により血液を調べます。脈が速くなる原因として、貧血などや、不整脈がでやすくなる原因として、電解質異常や、甲状腺ホルモン分泌異常などが知られています。
これらの項目を、血液検査でチェックする事ができます。また心臓への負担のかかり具合を、チェックできる検査項目もあります。
結果説明まで、当日 ~ 1週間程度後と血液検査項目により幅があります。
【入院】心臓カテーテル検査
医師の診察や、外来での精密検査の結果、また症状によっては外来精密検査を経ずに、心臓カテーテル検査が必要となる事があります。
クリニックや病院の多くが、心臓カテーテル検査を、入院検査としています。当院でも入院検査となります。
冠動脈と呼ばれる、心臓を栄養している血管が、狭窄していないか?、閉塞していないか?を外来検査以上に、精密に調べることが出来ます。
カテーテルとは、医療用の細い管を指します。手首、肘、足など、体の表面に近い部分を走っている動脈に、局所麻酔を使用しながらカテーテルを挿入します。
動脈を通って、心臓まで直接カテーテルを送り込み、選択的に血管を造影し、狭いところや、詰まっているところが無いかを調べます。
関連ページ: | 狭心症、心筋梗塞のカテーテル検査・治療 |
補足
- 所要時間は、検査のおおよその時間となります。(ご説明、前後のお待ち頂く時間は含めません)
- 自己負担額は、検査のみの目安となります。(診察、お薬の自己負担額etc.は含まれません。制度変更に伴い、変わる事があります。)
- 各病院やクリニックの診療体制によって、所要時間、自己負担額、結果説明までの時間は異なります。
関連ページ: | 検査について |
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ST低下のST-T異常で考えられる疾患や原因など
心電図所見 ST低下では、以下の疾患や原因などが考えられます。
- 狭心症
- 心筋梗塞
- 心筋症
- ジギタリス効果
- 低カリウム血症
- 健常者
- etc.
・狭心症
心臓を栄養している血管が、狭くなる病気です。労作などによって、心臓に虚血が生じると、心電図のST低下のST-T異常を認めることがあります。病変が進行したり、トラブルによって、不安定狭心症や心筋梗塞に、移行する場合があります。
・心筋梗塞
心臓を栄養している血管が、閉塞してしまう病気です。心不全や、突然死の原因となります。心筋梗塞ではST上昇が知られていますが、梗塞部位の対側性変化として、ST低下の異常所見を認めることがあります。
・心筋症
何らかの原因で心臓の筋肉が、分厚くなり過ぎたり、薄くなってしまい、心臓の機能低下を来す病気です。心不全や心臓突然死の原因となります。心筋症のため、心電図でST低下のST-T異常を認める場合があります。
・ジギタリス効果
ジギタリスは、心臓病治療薬の一つです。内服などにより、ジギタリスの血中濃度が一定以上となると、ST低下のST-T異常などといった、心電図変化が生じることがあります。
・低カリウム血症
カリウムという電解質の、血中濃度が低下すると、ST低下のST-T異常といった、心電図変化を認める場合があることが知られています。
・健常者
心臓疾患など、基礎疾患を持たない方でも、ST低下を認めることがあります。女性に多いとされています。
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生活習慣病とは? |
ここからは、少し難しい話かもしれません。ご興味のある方は読み進めて下さいね。
心電図所見 ST低下は心電図波形の異常となります。
一般的に、T波の終点からP波の開始点まで(T-P部分)を基線として、その基線に対してST部分の低下、上昇を判定します。
頻脈である、U波の存在により、T-P部分がない場合は、P波の終点からQ波の開始点まで(P-Q部分)を基線とします。
正常例ではST部分は、T-P部分と同レベルにあります。ST低下には、水平型、下降型、接合部型の3パターンがあります。
水平型、下降型では、基線よりもST部分が、J点で0.5mm以上低下していると、異常所見とされます。
一方、接合部型では、基線よりもST部分が、J点より2mm(0.08秒)後でも、0.5mm以上低下している場合、異常とされます。
しかし、自覚症状によっては、わずかなST低下でも、重要な意味を持つこともあります。
水平型のST低下から、上向きのT波へ急速に移行するパターンは、心筋虚血に特徴的とされていますが、典型的な心筋虚血パターンを示すことは、少ないとされています。
狭心症でも非発作時は、ST低下を認めないことが多くあります。高血圧症など、左室圧負荷による左室肥大が進行すると、QRS波のvoltage criteriaを満たすだけでなく、ST低下を伴います。
女性では、心疾患がなくても軽度のST低下を示すことがあります。この場合は、接合部型ST低下を示すことが多いとされています。
ST低下のST-T異常については、以上となります。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
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心電図検査全般や、正常所見につきましては、別ページをご参照ください。
ST上昇のST-T異常で考えられる疾患や原因など
心電図所見 ST上昇では、以下の疾患や原因などが考えられます。
- 心筋梗塞
- 狭心症
- 心室瘤
- 急性心膜炎
- 健常者
- etc.
・心筋梗塞
心臓を栄養している血管が、閉塞してしまう病気であり、多くの場合にST上昇のST-T異常を認めます。心不全や、突然死の原因となります。
・狭心症
心臓を栄養している血管が、狭くなる病気です。異形狭心症の発作などにより、強い虚血が生じた場合、ST上昇のST-T異常を認めることがあります。
・心室瘤
虚血性心疾患など、何らかの理由で、心室の壁が菲薄化し、瘤状に突出した部分を心室瘤と呼びます。心室瘤があると、心電図でST上昇のST-T異常を認める場合があります。
・急性心膜炎
心臓は、心膜という薄い袋に包まれています。感染症などが原因で、この心膜に炎症が生じると、心膜炎となります。心膜炎では、ST上昇のST-T異常を認めることがあります。
・健常者
心臓疾患などの、基礎疾患を持たない方でも、早期再分極と呼ばれるST上昇を、認めることがあります。男性に多いとされています。
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ここからは、少し難しい話かもしれません。ご興味のある方は読み進めて下さいね。
心電図検査 ST上昇は心電図波形の異常となります。
基線は、T波の終わりからP波の始まりまで(T-P部分)と、一般的には定義されます。
その基線に対してST部分の上昇、低下を判定します。頻脈や、U波の存在により、T-P部分がない場合、基線はP波の終点からQ波の開始点まで(P-Q部分)と定義されます。 正常例ではST部分は、T-P部分と同レベルにあります。
J点において、肢誘導で1mm以上、胸部誘導で2mm以上がST上昇とされますが、ST低下同様、自覚症状によっては、わずかなST上昇でも、重要な意味を持つこともあります。
心筋梗塞といって、心臓を栄養している血管(冠動脈)が、閉塞してしまう病気では、多くの場合に、梗塞部位に対応した誘導で、ST上昇を認めます。
急性心膜炎でもSTが上昇する事が知られています。心筋梗塞でのST上昇は、T波へ移行するST部分が、上に凸型を示したり、梗塞部位の対側性変化として、ST低下を示す誘導が存在したりします。
一方、急性心膜炎ではST部分が凹型を示し、対側性変化は認めないとされています。若年男性を中心とした、心臓病などの基礎疾患を持たない方でも、V2~V5誘導において、3mm近くのST上昇を認める場合があり、早期再分極と呼ばれます。
心膜炎と同様にST部分が凹型を示したり、心膜炎ではST上昇が肢誘導、胸部誘導にみられますが、早期再分極では胸部誘導のみに認める場合が多いです。
ST上昇のST-T異常については、以上となります。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
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投稿者:医師、医学博士 吉川